■ワンポイント・エッセイ 自分で考える(10) 大嶋利佳

 考えるとは、具体化することです。あいまい、ばくぜんとし
ている状態に何らかの区切りをつけ、誰にとってもはっきりし
た状態にする。なにごともここから始まります。
 日本語学校の学科長をしていたとき、日本語教師を志望する
人からこう尋ねられたことがあります。「外国人が、日本語が
上手になるにはどうしたらいいんでしょう?」
 この質問はあいまい、ばくぜんとしています。そこで「あな
たの言う“日本語が上手”というのはどのような状態ですか?」
と尋ねました。日常会話ができれば“上手”と言っていいのか、
それとも日本語検定試験1級に合格するレベルを“上手”と言う
のか、それが具体化されていなければ「どうしたらいいのか?」
には答えられません。さらにその外国人とはどこの国の人なのか、
いつからどこで日本語の勉強を始めるのか、なぜ日本語を身に着
けたいのか、そういう点も明らかにする必要があります。
 自分で考えられない人は、こういう5W1Hの要素を検討するこ
となく「どうしたらいい?」と、すぐに人に尋ねてしまいます。
講師養成講座では、「講師になりたいのですが」「本を出したい
のですが」、研修では「クレームが多いのですが」「社員の言葉
づかいがヘンなのですが」と、さまざまな「どうしたらいい?」
というご相談を受けます。他人にばくぜんと尋ねる前に、まずは
自分で5W1Hをもとに具体的に検討すればいいのに、と残念に思
います。