■ワンポイント・エッセイ  取り組む姿勢(3)
                      大嶋 利佳

 「人の意見をよく聞く」、これは良い態度だとされています。
しかし、注意しなければならないのは、それは他人に従うという
意味ではない、ということです。
 日本語で「言うことを聞く」という表現には、相手の言葉を耳
に入れるだけではなく、従うという意味が含まれます。そのため
私たちは「人の言葉を聞いたからには従わなければ」と思いこみ
がちです。
 そういう思い込みを持っていると、他人の無責任な発言に支配
されてしまいます。前の回で述べたように「本を出すのは無理だ」
という人の言葉をよく聞いていたら、私は出版をあきらめていた
でしょう。
 私は、質の高い仕事をするためには、人の言葉に安易に従わない
姿勢が欠かせない、と考えています。経験の浅い講師が、アンケー
トに書かれた受講生の評価や感想に一喜一憂したり、担当者が思い
付きで研修内容に口を出してくるのに振り回されたりしている様子
を見る度、その感を深めます。
 もちろん、人の言葉の中には、有益なものも少なからずあります。
しかし、それらは土砂に紛れて埋もれた宝石のようなものです。め
ったにはありませんし、見分ける目を持たなければ手に入れられま
せん。
 「人の意見をよく聞く」とは、それが本当に、聞くに値する言葉
かどうかを判断するためにすることです。自分にとって有害、無意
味な言葉は聞き流す、聞き捨てる。そういう強い姿勢を持つことが
どんな分野や立場の人にも欠かせません。